「場所も丁度良いしさ。大学から、近すぎず遠すぎずで」
慎吾の兄の友人が言うには、大学から近すぎると友人や仲間連中の溜まり場になってしまいやすく、かといって遠すぎると通学が大変だというので、中間あたりが良いのだという。
「他にもあるぞ、このぐらいの距離で。大体、親から仕送りを貰う身分で、センスがどうとか贅沢言ってられないだろ」
そう言うと、口を噤んだ。さすがに自覚しているらしい。とりあえず、中を見てみますかと不動産屋に促され、中に入る。
「こちらは今年の九月に出来たばかりの新築ですし、立地も良いので人気があるんですよ。豊島区内ですと、うちで扱っているのはこのアパートと、先程のアパートのみになりますね」
「ほらほら」と、慎吾が後押しするように言う。
 住む場所を決めるに当たって、これは譲れないと慎吾が言ったのは、古すぎない(出来れば築二〜三年程度)、狭すぎない(二人で住んでもそこそこ余裕がある)、フローリング(畳は嫌)、そして先程の近すぎず遠すぎず、といった事だった。正直住む事さえ出来ればどこでも良いと思っていた自分とは考えが余りに隔たっていて、贅沢すぎないかと思ったものだった。
「多少は高いかもしんないけどさ、二人で割ればこの部屋だと四万三千五百円だろ?一人暮らしの奴に比べたら、全然良いって」
「でも、さっきの物件のが安いぞ」
「だって築十三年だぜ?絶対出るってゴキブリ的なモンが。オレ無理。絶対耐えらんねえ。狭いしさ」
慎吾が言うのも分からないではない。神経質な所があるので、古い所が嫌なのだろう。また、先程の物件は二人では狭いかと思ったのも事実だった。