「和己、お前今日も弁当だろ。オレ、購買でパン買ってくるから、屋上で食おうぜ」
「良いけど。何か話か?」
「まーな」

「ラッキ。誰もいねぇや」
「で、何だよ話って」
「お前今日は準太と帰れ」
「…何で。見捨てんのか?」
「ちげーよ。最近、準太のオレを見る目が、『ただの慎吾さん』から『大好きな和さんを独り占めする悪い慎吾さん』に変わってきてんだよ。アイツ自分では気付いてないだろうけど、ふとした瞬間に見せる目が怖ェんだよ」
「…ダメだ。準太と二人きりになると何か変な事口走っちまうかもしんねぇし。もしくは逆に沈黙しちまって、不信感買う可能性だってある」
「練習中は普通にやってんじゃねぇか」
「ユニフォーム着てマスク被ってやってりゃ、キャッチャーや主将として気付かれない程度に何とか出来てるけど」
「じゃあ利央と3人で帰れ。それなら出来るだろ。お前ら3人、帰る方向大体一緒なんだし」
「…分かった」
「…なぁ。例えばお前の中にさ、準太に告白するって選択肢は無いわけ?」
「無理だ。どう考えたって、上手く行くわけが無い」
「そうか〜?んな決め付けなくっても…」
「慎吾」
「何」
「例えば呂佳さんがさ」
「?」
「お前のことが好きだった。付き合ってくれ。って言ったらどうする?」
「……うん、あの、丁重にお断りするかな」
「だよな」
「だな」
「…はぁ〜〜」
「いやいやいや和己。お前は呂佳さんじゃねぇし、準太はオレじゃねぇからな?」
「…」
「…」
「慎吾」
「何だよ」
「例えば呂佳さんが」
「また呂佳さんかよ」
「一度で良いから抱かせてくれ!って言ったらどうする?」
「ぶはっっ!っおい!マジでお前、人を使ってシミュレーションとかするのやめろ!想像しちまったじゃねーか!つーか牛乳吹いちまったじゃねーかよ」
「無理か?」
「無理だよ。ムリムリ」
「だよな…」
「オイオイ勝手に人にふっといて勝手に落ち込むなよ。お前は呂佳さんじゃねーんだからよ」
「だって無理だっつったじゃねーかよ!それと同じだよ。それと同じよーな事が起こるって事だよ」
「…まぁ、普通はそうだよ。でもな、お前と準太はまた違うかもしんねーだろ?」
「何を根拠にそう言うんだよ」
「いや…(準太が最近、オレとお前が一緒にいる事をスゲー気にしてるっぽいってのは有るっちゃあるけど…あんま不用意な事言えないよなぁ)根拠とか言われると辛いけどさ。準太はホラ…、正直周りがひくぐらいお前になついてるわけだし…あんま悲観的に考えなくてもいいんじゃねーのかなって…」
「いいよもう。話聞いてくれるだけでも助かってるんだからよ」
「……そーかよ」



「準太、利央、今日なんか用事あるか?」
「え、別に無いッスけど…」
「オレも無いけどォ」
「じゃあ一緒に帰らねぇか?久しぶりに」
「!あ、っはい!」
「どしたの和サン〜、どういう風のフキマワシ?」
「お前、黙ってろ!」
「いだいいだい!」
「じゃあ部誌さっさと書いちゃうから、待っててくれな」
「はい!」


「じゃあねェ〜」
「おう」
「え?…あ、そうか、利央はココで別れるんだっけ?」
「そうっすよ。久しぶりで忘れました?」
「……(落ち着け。そんな大した距離じゃねぇ。ここまで来たら準太と一緒なのは精々500mとかとかそんな距離…くそ長ぇな)」
「あ〜〜、鬱陶しいのがいなくなって清々したっつうか。ようやく2人になれましたね」
「(え?!どういう意味だ?いや待て何言ってるどういう意味でもねぇよ。コイツは可愛い後輩で、オレを慕ってくれてる後輩だ。それだけだ、それだけだか…)」
「和さん…」
「(お、お前なんでそんなしっとりと沈んだ声出すんだ。何なんだ)」
「最近、あんまり喋ってないっすよね…。オレ正直、もっと和さんと色々話したいと思ってて」
「…」
「その、ちょっと和さんと距離空いちゃった気がしてて。でもだから、今日帰るの誘ってもらって嬉しかったんス。利央がいましたけど」
「…」
「あの、もしかしてオレとあんまり話さなくなった事って理由とかあったりしますか?」
「(準太、お前は全く意識してないんだろうけど、オレがうっかり勘違いしそうになるセリフを次から次へと吐き出すのは勘弁してくれ。男と女だったら完璧勘違いしてるところだ。理由なんてお前が好きだからに決まってる。)」
「和さん…?」



「…!!…悪い!今日は早めに帰らないといけないんだった!ごめんな!」
「え、和さん?!」
和さん逃亡。9/14