そうして悶々と悩んでいたある日、大学帰りに、たまたま元カノと遭遇した慎吾。
「久しぶりじゃない?」
「おぉ」
そうして、近くのカフェで少し話をする事に。そしてこの際、友達の話という事にして、自分の悩みを相談してみる事に。
「ナニソレ。有り得なくない?だって付き合って4ヶ月?キスも無し?その男ってホントにその子の事好きなの?」
「や、多分…」
「ねぇ、それ一回ちゃんと問い質した方が良いよ」
「そう、だな。あ、でもさ、同棲してるみたいで」
「ハァ?余計意味わかんない。同棲してて何で何もしないの?」
「(まぁ、そりゃそうだよな…それが普通の反応だよな…)」
「てか何で同棲する事になったの?普通さ、それなりに順序があんじゃん」
「あぁ、まぁ…家賃が安くつくから、とか…」
「…ねぇ、それってさ、同棲じゃないよ。同居でしょ、タダの」
「同居…」
「彼女じゃなくて、同居人でしょ、タダの」
「同居人…タダの…」
「その子って、どんな子?」
「どんな子って、まぁ、フツー…かな」
「仮に男の方がさ、大してその子の事好きじゃなくても、そこそこ悪くなきゃ手ェ出すでしょ。一緒に住んでんなら。よっぽど嫌いとか可愛くないとか、その気にならないくらい年が離れてるとか、何か理由が無い限り」
「……」
「てか、そんなの慎吾のが男なんだから、私より分かるでしょ?」
「まぁ、一応参考までに聞いとこうかなって」
「とにかく一回ちゃんと話するべきだと思うけどね」
「だよな…」
「てか何で慎吾がそんな落ち込んだ顔してんの?」



「う…や…、ホラ、仲良い子、だから可哀想だなって」
「ふぅ〜ん…。ねぇ、実は慎吾がその子のこと好きとか?」
「や、そういうんじゃねぇ」
「なんか気にしてるからさ。てか慎吾はどうなの?彼女出来た?」
「…出来たっつうか出来たような、そうでないような…」
「なにそれ。どういう事?付き合ってないの?」
「付き合って…ると思ってた、けど…」
(そう言えば、付き合うとか具体的な話してなかった。ただ、好きって。和己が言ってくれてオレも、って…。大学でバラバラに
なっても会ってたし。月、2、3回、だけど。キスすらしてないけど…。同居…)
「慎吾?」
「…オレ、そろそろ帰る、わ」
「え?」
「話聞いてくれてありがとな」
「うん…」
そうしてアパートへと帰ったものの、元カノの言葉がずーんと重く圧し掛かっていた慎吾。
しばらくして和己が帰宅すると、どこか遠い目をしてヒザを抱えた慎吾がそこに。
「ただいま」
「オカエリ…」
「慎吾?オイどうしたよ」
完全に黄昏ている慎吾にビビりつつ、何があったかと声をかける和己。
「なぁ和己…オレって…同居人?」
「…?いやまぁ、同居してるけど。それが何か…」
「そっか…同居人か…タダの」
「オイ。タダの、って何だ。つか何があったんだよ。分かるように言えよ」
「…っだって!お前が手ぇ出さねぇから…っ!」
「え?!」
「オレ帰る」
ボソッと言うと、戸口に向かって歩き出す慎吾。
「帰るってドコにだよ!おい慎吾!」
「離せよ帰る!」
駄々をこねる子供とそれを止める母親のような図を展開しつつ、最終的には和己が羽交い締めにしてなんとか慎吾を止める。
何があったのかと再度尋ねる和己に俯きつつ答える慎吾。
「だって…タダの同居人じゃん。こんなのタダの…」
「オレが手を出さないからか?」
「……」
何となく状況が掴めてきたものの、なんでまた急に、とも思いつつ、取り敢えず話をしなければと思う和己。
「なぁ、慎吾。オレはお前が好きなんだよ。タダの同居人なわけないだろ?ずっと好きだったんだから」
「じゃあ、何で…」
「手を出さないのか、って事だよな…。その、出していいものか分からなくて、な」
「でもオレ、お前と両想いだつったじゃん…」
「うん。でも…お前はその、昔の事とかあったから、いざとなったら拒否反応が出るかもしれないとか…。本当に男で大丈夫なのかとか、色々考えちまって。いや、自分が、お前に拒否られたらどうしようって、それが一番怖かったのかもしれない」
昔の事、と言われて入部してまだ間もない頃の事を思い出す慎吾。
「…そんなの、もう昔の事だし。もう3年経ってるし」
「そう、だよな…」
「それとも、お前が嫌だった?オレなんかじゃ…」
「慎吾!…んな訳無いだろ」
「…」
「慎吾、キスしていいか?」
コクリと頷き、「して欲しい」と返す慎吾。
「ん…」
「…」
「なぁ、もっと……んん」
「……」
「足んねぇ。もっと」
「…もっとか?」
「だって四ヶ月分だし」
「…四ヶ月分ってなぁ…。つかキスじゃ済まなくなるぞ?」
「あ、それ良い」
「良いとか言うなよ…ってか、な…」
「何」
「オレ、お前の事ずっと好きだったんだよ。高校に入って半年ぐらい経ったぐらいからずっとだよ。だから彼女もいなかったし」
「知ってるけど(そんな前からってのは知らなかったけど…ヤベ、嬉しい)」
「中学でも、いなかった」
「へぇ」
「つまり、ヤッた事ねぇんだよ…」
「…あぁ、なるほど」
「…笑うなよ?」
「セックスを?」
「う…、っそうだよ」
「笑わねぇよ。だって超嬉しいし」
「ホントか?」
「うん」
「じゃあ、そのうちな」
「は?そのうちって何だよ。今してくれんじゃないの?」
「いや、初めてキスしてその日にセックスは無いだろう」
「有るよ」
「無い」
「有るって!」
「ダメだ。そういうのは…何かこう、ダメだ。倫理的に」
「倫理的にって…(男同士な時点で既に大きく倫理に反してると思うけど)」
「とにかく今日は、普通に寝る。いいな」
「う〜…。じゃあさ、添い寝したい」
「…ダメ」
「はぁ?何でだよ」
「落ち着かないだろ…色々と」
「んな事ねーよ!オレは全然落ち着くし!」
「(お前が良くてもオレが落ち着かねぇんだよ)…とにかくダメだ」
「…」
「……」
「帰る」
「は?」
「家に帰る」
「ちょ、ちょ、ちょっと待て慎吾。分かった、分かったから。な?」
「一緒に寝る?」
「寝るから」
「じゃあ、居る」
そう言う慎吾にホッとする和己。と同時に、何だか尻にしかれそうな予感を沸々と感じたりもしていたり。

一応、ここで収束です。実家に帰らせていただきます的な慎吾になっちゃってますが。
これから後、慎吾は意に反する事があると、「家に帰る」を切り札に使います。
でも慎吾の方も帰りたいわけでは勿論無いのですが。和己が慌ててくれるので、つい使います。 ていうか前半シリアスだったハズがこんな微妙な展開に…。 11/25