夏の日


「あー暑い、日射病か、熱射病になりそうだ、アイス食いたい」
「一番暑い時間だもんな、ドリンクだけじゃなあ」

休憩時間、慎吾が、アンダーから、野球部指定の練習用シャツに着替えながら言うのに、オレも頷いた。
とにかく暑い。

「帰りアイス食ってこうぜ」
「そうだな」

そんな会話をして、帰りに慎吾とアイスクリーム屋に寄った。

3つのアイスをスプーンで食い始めると、体が冷えてくる。

「お前、凄いよなぁ」
「何がだ?」
「マスクとプロテクターにレガース、かなり暑いだろ?」
「まあな、ガキの頃からだし、慣れた」

慣れるまで大変だったが、今は慣れて、多少の暑さなら影響ない。
アイスを食い終わり、カップとスプーンを捨ててから、店を出ると、生暖かい風が吹いていた。

「今夜も熱帯夜かな」
「あー、予報で言ってた」
「雨が降れば、少しは涼しくなるかもな」
「逆に暑くなる事もあるだろ、グラ整の水撒き、大変だ」
「確かに、グラ整大変だな」

野球の話をしながら、帰路につく。

「じゃ、また明日」
「おう、明日な」

踵を返して行きかけると、慎吾に腕を掴まれた。

「どうした?」
「や、なんとなく」

慌てて腕から離れる手に、離したくないと思う。

「じゃあ」

行きかける慎吾の腕を今度はオレが掴む。

「何?」

聞いてくる唇に触れるだけのキスをした。



END
追いかけっこ(慎吾の受難)



週番で、社会科準備室に、地図を返しに行き、地図を戻して、教室に戻ろうとしたら、慎吾が飛び込んで来た。肩で息をしている所を見ると、全速力で走って来たらしい。

「和己、かくまってくれ!」

誰かから逃げて来たのはわかるが、かくまってくれというのは、穏やかじゃないな、誰から逃げているんだ?聞こうと思ったら、腕を引っ張られ机の下に隠れる形になった。

「何でオレまで隠れるんだ?」
「後で説明するから、来た!」

「慎吾〜いるんだろ〜」
「この辺だと隠れる所、ここしかないはずだけど」

山ちゃんと本やんの声だ。一体何やってるんだ?

「山ちゃん、そろそろ戻らないと次、移動じゃん」
「そうだったね〜じゃあ今は戻ろうか」

そんな会話をして2人が出て行くと、安心したように、慎吾は息をはいた。

「一体何やってるんだ?高3にもなって鬼ごっこか?」
「追いかけっこだよ!オレだって高3にもなって、追いかけっことかしたくねーよ!」

一気に言った慎吾は、溜息をついている。

「山ちゃんの悪戯に、本やんがのって、こうなったんだ」
「あの2人、悪戯好きだもんな」
「四組を通りがかったばっかりに…」

要するに、退屈してる時に慎吾を見かけて、追いかけっこになったらしい。
高3にもなって追いかけっこ…でもあの2人らしい。
「狭いから、とりあえず机の下から出ないか」

さっきから思っていた事を言うと、引っ張られてそのまま掴まれていた、腕を離し、ごめんと謝った慎吾と狭い机の下から出た。
深呼吸をする、ただでさえ狭い場所に男2人が隠れるのは無理があった。
少しでも動いたら、顔が触れ合う位の至近距離。

「悪い、隠れるなら、もっと他の場所あったのに」
「いいよ、テンパってたからだろ?」
「サンキュー」

慎吾をこんなに慌てさせる四組コンビは凄いなと、改めて思う。

「山ちゃん、今は戻ろうとか言ってたけど、大丈夫なのか?」
「そうだった。追いかけっこまだ続いてんのか…」

項垂れる慎吾の肩を慰めるように、叩いてやる。

「2人が飽きるまで、頑張れ、オレも聞かれたら誤魔化してやるし」
「サンキュー、和己、頼むな」

休み時間の度に逃げる慎吾が気の毒になって、うちのクラスに来た2人に声をかける。

「悪戯は程々にな、部活前にバテたら、お前らも監督に怒られるぞ」

「そうだね〜昼休みには、やめるよ」

昼休みまでか、後少しだな戻って来た慎吾を見ると、すでにかなり疲れている。
「せめて、昼飯位はゆっくり食いたい…」
「監督に怒られるぞっつったら、昼休みには、やめるって言ってたぞ」

呟くように言う慎吾に言うと、少しホッとしたようだった。

「さすが和己!有難う!何とか昼休みまで逃げるな」
「おお、頑張れ」

昼休みには、ぐったりしている慎吾と一緒に弁当を食う。言った通り、昼休みに四組の2人は、現れなかった。

「災難だったな」
「ほんと、災難だ、オレ寝るから、起こしてくれよ」
「わかった」

机に突っ伏して、目を閉じた慎吾をオレは苦笑しながら見つめた。



END
Blue Crossの瑞稀様から、和島文を頂きました。
友達のような和島をリクエストさせて頂いたのですが、二人の日常風景が垣間見えたようで素敵です。
おいかけっこなんてしてるのがちょっと可愛いななんて思いました。有難う御座いました!