「やだって。やだやだ」
「何でだ」
「何でも何も無いだろ。やだから嫌だっつってんの」
「だから何で嫌なんだ」
「昨日ヤっただろ?だから今日はヤなんだよ」
「でも二日休みなんて早々無いぞ。というより今オレは凄くヤりたい」
「そんなのそっちの都合じゃねーか。オレはヤだ」
「慎吾〜、そういう事言うなよ。元はといえば、お前が襲ってくださいとばかりに無防備にぼけっと腹出して寝てたのが悪いんだろ?」
「何でオレが悪いんだよ。意味わかんねぇ。悪いのは、ただ寝てただけの人間にいきなり乗っかってきたお前だろ」
「そりゃさかるだろ。好きな人間が、お召し上がりくださいとばかりに目の前にいたら」
「何でだよ!その、オレをメシに例える癖止めろよ」
「しょうがないだろ。そういう感じなんだよ。ていうか、別に昨日やったからって今日もやっちゃ駄目なんて決まりは無いぞ」
「オレがやなんだよ。なんかまだケツがじんじんしてるし」
「大丈夫だって。多分」
「多分て何だ。分かりもしねーくせに無責任な事言いやがって」
「慎吾〜」
いつの間にかアパートに帰ってきていた和己に、寝込みを襲われてから、ベッド上でこんな攻防を延々と続けていた。凄く馬鹿らしい。ちなみに何故和己を拒否し続けているかというと、やる気満々で鼻息が若干荒いのが実は嫌だった。引いてしまうのだ。しかし和己は中々諦めない。先程から随分時間が経過しているというのに、勢い衰えず、未だオレを組み敷こうと粘っていた。最後には情けない声で名前を呼んで、追い縋ってくる始末だ。我が恋人ながら物凄く可愛そうな人間に思えてくる。なのに和己に隙を付かれて優しいキスをされた途端、ついぐらりと理性が揺らぎそうになる自分がそこに居た。別に良いんじゃないか、なんてあっさりとそちらへ思考が傾いてしまって、自らの単純ぶりに泣けてきそうだった。
「慎吾」
名前を呼ばれて、顔を両手で覆われて、額にキスを落とされる。ゆっくり丹念に唇にキスをされる。もうこの時点で八十パーセント落とされかかっていた。こいつ簡単だな、なんて思われてやしないだろうかと思い、和己の顔を見上げると、そこには予想外に真剣な顔があって、逆に少したじろいでしまった。

 そうしてその後は和己の思い通り事が進んでしまったのだが、もはや何の不満も残っていなかった。終わった後は、シャワーを浴びる前に暫し、和己に寄り添ってそのままでいる。その時間がとても好きだった。程よい疲労感が休息を求めて動くなと命じているし、ついでに眠気も呼んでくる。心地よい布団の温もりと、和己の体温がこの場を離れるなと言っている。だが二十分もすると和己に起こされ、仕方なくシャワーを浴びる。そして身体を洗った後に部屋着を着、再びベッドへ戻る。その頃にはもう眠気は飛んでいるが、和己に寄り添うようにして、横になったまま惰性に時を過ごす。
「夜さ、何食べる?」
時刻はまだ五時を回った頃だった。和己はう〜んと考え込んでから、オムライスと言った。材料が揃っていたかどうかを思い起こして、大丈夫だと告げる。だがオムライスだけでは栄養的に足りないので、野菜スープもつける事にした。
 和己と同居するに当たって、オレは一冊のレシピ本を買った。アスリート向けの身体を作っていく為に、栄養バランスの取れたメニューが網羅されている、分厚いレシピ集だ。。”スポーツ選手の完全食事メニュー”というタイトルで、これを頼りにこれまでずっと夕飯を作ってきた。メニューは実に四百種類が掲載されていて、今では付箋が沢山付いている。和己は何となく、オレは料理が得意らしいという事実を知ってはいても、そんな本を活用しているなんて事は全然知らないだろう。
現在書いている、同居話2の序盤になります。