日曜日だけあって、店内は結構混んでいた。
注文し、慎吾とテーブルにつく。
何となく雑談し、暫し間が空くと、慎吾はオレンジジュースのストローを加えたまま窓の外を眺めていた。



前にも思ったことだが、やはりコイツは何となく雰囲気がある、…気がする。
ただボ〜っと外を眺めているだけなのに、その横顔を見ていると、構いたくなるような、触れたくなるような。
(ヤバイ。キスしたくなってきた。二人きりの所に連れて行って、壁に追い詰めて、顎を掴んで…ってオイオイオイ!真昼間から、というか初っ端から何を考えてるんだオレは)
そんな事を考えてしまって焦る。そもそもオレはそんながっつくタイプの人間じゃないはずだ。くそ慎吾め。
さり気なく責任転嫁しつつ、自分の思考に混乱していると、ふと慎吾がこっちを向いた。
バッチリ目が合ってしまい、更に焦る。
(クソ落ち着け。コイツに弱みを見せるとか冗談じゃない。ああでも今にもキョドりそうだ)
そう思った俺は取り合えず
「ケチャップついてんぞ慎吾」
「え、ウソ」
「いやウソだけど」
「は?!何ソレ。意味ワカンネーし!」
慎吾を軽くからかう事で誤魔化した。

しかし、誤魔化してはみたものの先ほどの妄想からどうにも離れられない。
それどころかどんどん膨らんでいっている。
この間みたいなキスじゃなく、もっと深いキスをしたら、コイツはどういう顔をするのだとか。
そっから先に更に進んで、あのTシャツの下から手を差し込んで上半身をまさぐって首筋に顔を埋めて、そこから肌の至る所に唇を這わせて。そしたらコイツは擦れた声で、オレの名前を呼んだりするのか。
ヤバい。何かもう色々とヤバい。あぁオレも遂にソッチの道に。いやまだあれから1週間ぐらいしか経ってないというのに何なんだこの有様は。男にハマってしまう自分…どう考えても痛い。痛いというか、何かもう、大丈夫なのかオレは。
そんな考えに囚われていると、慎吾に少し怒ったように名前を呼ばれた。
ちなみにあれからマックを出て街中を歩いていたのだが、すっかり自分の妄想に没頭していたオレは、慌てて慎吾を見る。

「オイ、何かさっきから上の空じゃねぇ?…つまんねぇのかよ」
「いや、そういうんじゃなくてな(お前相手に妄想してたなんて言える訳が無い)」
「じゃあ、どういうんだよ」
「…すまん、ちょっと考え事してた」
「へぇ」

あぁ、明らかに怒っている。
こういう時はどうするんだったか。以前、慎吾からレクチャーされた事を、そのまま慎吾に適用すべく記憶を探る。
取り合えず、すぐ謝れ、だっけか。

「悪かったって。マジで」
「……」
「いや、何つーか、お前の事ちょっと考え始めたら、つい没頭しちまったっつーか」
「…っ!な…んで、目の前にオレがいるのに、んな…考える事、ねぇ、だろ」

真っ赤だ。
こんな調子でよく、タラシなんて言われたもんだ。
ちなみに何に関して没頭していたかは勿論言わない。というか言えない。
お前こんな調子じゃすぐ騙されるぞ。物慣れた女辺りに。
などと自分の事は棚に上げて、思った。
いやしかし、コイツは女相手には色々と馴れている筈だ。
じゃあ、オレだからとか?
うわ。恥ずかしいヤツめ。というかこっちが恥ずかしくなってきた。
気付けば慎吾に負けず劣らず硬い動きで、無言のまま歩き続けた。
傍目には微妙な二人組だろう。

しばらくして慎吾がボソッと
「映画でも、観るか?」
と言ったので、賛成する。
お互いにちょっとクールダウンした方が良いかもしれないと思った。




休日だけあって、映画館は混んでいた。
「オレ、これ観たいんだけど」
慎吾が指差したのは、カーアクションものだ。
オレも映画は単純明快でスカッとするものが好きなので(じゃないと寝てしまいそうになる)、同意する。
チケット売り場に並ぼうとすると、
「あれ、慎吾?」と女の声がした。
振り返ると、綺麗な子が立っていた。長いストレートの黒髪には見覚えがあった。
慎吾の、確か前の前ぐらいの彼女だった気がする。

「おー」
「何観んの?」
「ワイルドスピード。お前は?」
「…アレ」

と言って彼女が指したのは、SAWとかいう、確か凄くグロくて精神的にまいってしまいそうな内容の映画、だったハズだ。

「やっぱりかよ。つかお前、一人で映画かよ」
「うるさいな!良いじゃん。てか誰も付き合ってくれなかったんだもん」
「そりゃあなぁ…。あのさ、オレと初めて行った時観たのって何だったっけ」
「…『タタリ 〜呪いの館〜』…」
「だよなぁ!正直、コイツ マジか?って思ったし」
「でも付き合ってくれたじゃん」
「内心、嫌だったけど」
「何ソレ!」

何というか、とても微笑ましいカップル同士のやり取りに見える。
彼女は細身の美人だし、慎吾はスマートで足も長いし、何というか見栄えがするのだ。
オレから見て、とてもお似合いだった。確か実際、彼女とは結構続いていた記憶もある。
何故別れたかは知らないが、オレからすれば慎吾に対して「お前、マジか?」と言ってやりたい。
何でこんな綺麗な子を振って、オレなんだ。

と、慎吾がちらっとオレを見た。
何だ?

「俺らそろそろ映画始まっから」
「あぁ、うん、じゃあね」





映画自体は、肝心のカーアクションに中々迫力があって楽しめた。
日本人役で韓国人が出てたのがどうにも腑に落ちなかったが、東京の街が舞台というだけでも結構テンションが上がった。
映画館を出ると、既に日がかなり傾いていた。
和さん、好きを自覚する前に性欲を自覚。
そんな和さんですみません…。 10/10