「よぉ」
今日もちゃんと待ち合わせ場所に、時間を守って現れた和己に歩み寄る。
和己はオレの姿を上から下まで見た後、「……お前…又なんか今回も頑張ってないか?もう少し背が高かったらちょっとしたモデルみたいに見えるぞ?」と感想を述べた。
「どうせオレは背高くないし」
「いや、そういうつもりで言ったんじゃねえんだけど。でも二人して歩いたらオレが完全に引き立て役だなぁ。前から思ってたけど」
「んな事ねーって!つかオレはお前しか見えないからどうでも良いし」
「…!……あ、そうだな、お前は自分自身が見えないわけだからな。うん」
「?」
「一瞬、オレしか目に入らないみたいに言われたかと思ってビビッた」
「うわ、ちげーって!」
恥ずかしくて焦って否定するが、実際にはそうかもしれないとも思った。
「ははは」
和己は実に大らかに受け流した。

「何か、さっきから見られてんな、お前」
暫く街中を歩いた後、和己がややトゲトゲしく言った。
「あぁ…ちょっと気になるよな」
のんびり返す。
「ちょっとじゃない!大分気になるだろ!女が相当見てるだろジロジロと!」
「キれんなよ。オレのせいじゃねーじゃん」
「いや、お前のせいだ。んな目立つ格好してくるからだ。しかも満更じゃねえんだろ。やっぱモテるなオレ、とかいい気になってんだろ」
何やら勝手に結論付けてくる。
「なってねーよ別に」
「そうか。お前にとっては珍しくもなかったか」
「もー、何言っても怒んじゃねえかお前」
「とにかく落ち着かねぇから、オレん家行くぞ。あ、そうだ。映画のDVD借りて観ようつってたろ、ソレで良いな」
そうして和己がさっさと一人で決めてしまい、ツ○ヤに寄ってDVDを借り、それを観る事になったのだった。

「あれ、誰もいねぇな」
玄関のドアを開けようとして閉まっている事に気付き、カギでドアを開けて言う。
「え、マジ?」
大抵和己の家には誰か居るので、思っても無い二人っきりという状況に瞬時に舞い上がった。
「まぁ、ちょっと買い物に出てるぐらいだろ」
なんだ…と瞬時にガッカリした。
とにかくリビングのソファに二人で腰を下ろし、映画を観る事になった。
アクション物なのだが、主人公はスパイで、記憶を失ったという設定だった。
記憶を失っても尚、スパイとしての技術が身体に染み込んでおり、やってくる敵を蹴散らし、その技術でもっていとも簡単にセキュリティを突破したりする。
その寡黙で鮮やかなスパイぶりがとにかくカッコ良かった。スパイ物と言っても007の用に荒唐無稽でアクションが派手という訳ではなく、格闘シーンにしてもどこかリアルさを感じさせる内容だった。
気が付けばのめり込み、すっかり見入っていた。
和己は既に観ているらしいので、時折ソファから立ち上がって飲み物を用意したり、分からない所を解説してくれたりした。
やがて映画が終わり、一息をつく。その映画は三部作になっているとかで、既にDVD化している二作を今回は借りてきた。三作目は現在上映中で、今度観に行こうという話になっていたのだ。
ちなみに和己の家族はまだ帰ってこない。もしかしたら長い用事なのかもしれなかった。
映画は面白かったが、そうと知ってたら色々出来たのに、と少し悔しく思う。
「二回観ても面白いな。でもちょっと疲れたな。もう一本あるけど」
「てかさ、家族の誰も帰ってきてねえよな」
「そうだな、どこ行ったんだろうな」
「したらさ、アレじゃん。二人っきりって事じゃね?」
「そうだな。そういう事になるな」
「…」
「…」
「…」
「おい!!」
「な、何だよ」
「お前おかしーだろ。普通ソコは、じゃあ部屋に行くか慎吾、みたいな流れになるだろ!」
「あ、え?あぁ、そうか」
「そうかじゃねーよ!そういう事言わせんなよ!」
「普通に映画に集中してたから頭回んなかったんだよ」
「回るとか以前にさ、三週間してねえんだよオレら!ヤりてえなとか思ってなかったのかよ!」
「いや、そりゃ思ってたけど。今日は無理だろーなって思ってたから」
「…何かアレじゃね?お前最初はガツガツしてたじゃん。ガツガツっつうか、寧ろそれが先行してたじゃん、ずっと。でもココに来て何か落ち着き始めてねえ?オレらまだ付き合って一年経ってねえっつうのに。つか十七の男がさ、そういう所に自然に頭が働かねえって時点で何かオカシイ」
「おい、ちょっと気が回らなかっただけで何でそこまで言われなきゃなんないんだ」
「だって!二人っきりなのにお前『そうだな』とかそういう反応じゃん!ガッカリくんだろ。あれ、それほどオレとヤりたいとか思わねぇの?とか不安になんじゃん!」
「…分かったよ。不安にさせて悪かった。じゃあヤろう」
「なぁ、お前もうちょっと自然に誘えよ。『じゃあヤろう』は無いだろ」
「どっちにしても文句言うんじゃねえか」
「言い方が悪いんだよ!…あ、お前今 溜息ついただろ」
「…慎吾」
「何だよ」
やや憮然として返すと、頭をぎこちなく撫でられた。そして額に軽いキスを落とされる。
「部屋行くか」
「…行く」
何だよやれば出来んじゃん。それならそうと最初からやれよ、なんて心中で抗議しつつも分かりやすく応じる自分は、簡単な恋人なのかもしれないと思った。