日曜日、部活も休みの今日は、和己と出かけられる事になった。つまりデートだ。”男同士でデート”という響きが痛かろうが何だろうがデートだ。

和己とモスで落ち合い、テーブルについて、注文したバニラシェイクを啜っていると、右斜め前の席にいるカップルが目に留まった。
そのカップルはペアリングをしていた。少し離れていて見え辛いけど、恐らくそうだ。
ペアリングと言えば、以前に元カノで、買いたいと言っていた子がいた。
オレは正直、縛られる感じが嫌でやらなかったけど。
今、こうして人がしているのをみていると、ちょっと良いな…なんて思ってしまった。
やっぱり乙女化が進んでるんだろうか。
しかし仮にオレと和己が実際やったらそれはもう、色々と痛い事になるだろうなと思う。
まず、和己がアクセサリーとか身につけるようなガラじゃない。
ましてオレとペアなんて誰が見てもキモイだろうし、そんなものを知ってる人間に見られようものなら、あっという間にホモ説が広まるだろう。
慎吾って最近彼女作らないと思ったら、ソッチだったの?なんてクラスの子に言われたりして。
想像するだけで恐ろしかった。

しかしオレは何となく諦めきれずに、モスを出て街をブラブラ歩き始めた頃、いっぱい前置きをつけて切り出してみた。
「いや勿論、有り得ねえとは思うんだけどさ。んなモン男同士でやったらホモを公言してるも同然だし。ただ見ててちょっと良いかなとか思っちまったっつうか。いやいやそりゃあさ、別にホントにやりてえとか、…んなんじゃないけどさ…」
言った時点で、結局やりてえって言ってんじゃんオレ、と思った。
「…でもお前、羨ましいとか思ったから言ってんだろ?」
「…」
「別にアクセサリーにこだわらなくても良いんじゃねえか?」
「…ていうと?」
「そーだなぁ…」
そう言って、和己はキョロキョロし始めた。少し歩いてから、何やらファンシーな雑貨ショップに入っていく。
おいおい、と思った。正直、男が入るにはキツイ店だ。彼女連れならまだしも。
和己は、キャラクターグッズのコーナーで足を止めた。ストラップとかキーホルダーが沢山ぶら下がっている棚を物色し、しばらくして「あったあった」と手に取ったのは例のウサギ、ミッ○ィーのストラップだった。
自然、表情が引きつると同時に以前の記憶が蘇る。
「オレは縫いぐるみが家にあるしさ。お揃いっちゃ お揃いだろ。なあ?」
なんてオレの顔を覗き込みつつ言う。
「あの…ホント、すんませんした…勘弁してください…」
視線を外しつつ、敬語で言う。
「慎吾〜、別に責めてるわけじゃねえぞ〜。オレもいつまでも根に持つような人間じゃねえよ」
そんなニヤニヤした顔で言われても、と思う。明らかにいじめるネタを発見したタチの悪い人間そのものだ。
「いえ、ホントもう、いいんで…ペアとか…」
オレが俯いたまま言うと、「悪い悪い」とストラップを戻して店を出た。

少し歩いてから和己が唐突に、「お前誕生日いつだっけ?」と切り出してきた。
意図が読めなかったが、9月21日だけど、と返す。
「過ぎちまってるけど、まぁ良いか。何か買ってやるよ。誕生日プレゼントって事で」
「え」
過ぎてるっていうか一ヶ月以上も過ぎてるし、とか、何で急に誕生日プレゼントの話に、とか色々と脳裏をよぎる。
「なんかさ、一応記念の品っぽくなんじゃないか?お前に何か物をやった事とか無かったよな?雑誌とか弁当のおかずぐれえしか」
「あぁ…そうかも」
和己がオレに、オレの為に何か買ってくれる。何だか急に嬉しさがこみ上げてきた。
「お前、何か前につけてたリングとか、ああいうのが好きだろ」
「や、でも結構高えし」
安物ならまだしも、シルバーアクセとなると、それなりにする。
「心配しなくても店で一番安いのとかしか買わねえよ」
そう言って、ズンズン歩いていく。
慌てて後を追うが、和己は急に立ち止まった。
「スマン、ああいう店ってどこにあんだ?」
お前知らずに歩き出したのか。つい心中でツッコミを入れる。
「もっと先だよ…つか、行った事無いんだよな?」
「無い」
良く適当に買うとか言えるよな…と呆れる。この分だと値段もロクに知らなさそうだ。

入った所は、ブランド品などは置いていない、オリジナルデザインが中心の店だった。値段は手頃なものも扱っていて、比較的買いやすい。
そうはいってもモノによっては結構する。まして高校生の財力では選択の幅も狭かった。
取り敢えず、良心的な値段のものを探そうと店の奥へ入っていくオレとは対照的に、和己はレジ近くのショーケースに飾ってある、いかにも値段の張りそうな商品を見て、高えモンだな〜なんてのんびり言っている。
アイツ、大丈夫なのか、と不安になる。そもそも金を持っているのか。
シンプルで細めのデザイン(要はシルバーの量が少ない)なら安いはず、と順番に見ていくと、目に止まるものがあった。
華奢でいかにもシンプルだが、微妙に波打つ海面のような ゆるやかな凹凸があるリングだ。何にでも合いそうだし、思ったより厚みもあった。
値段も、3500円と手頃だ。
「和己!」
早速呼ぶ。
「ん?」
「これとか良いかな〜と」
「あぁ、シンプルだな。前つけてたのって、もっとゴツくなかったか?」
「あれは兄貴のだし」
「じゃあ、それにすっか」
そう言って、店員を呼んだ。
つかコイツ、値段ちゃんと確認したのか?無難なものを選んだものの、そんな適当でいいのか。
人事ながら不安になる。
リングは右手の人差し指に嵌める事にした。さすがに左手の薬指なんてちょっと出来ない。
サイズなどを確認し、レジで会計を済ませ、店を出てすぐに「ホレ」と渡された。
「おう…、サンキュ」
やっぱり、ちょっと嬉しかった。
「あ、お前もさ…てか誕生日いつだっけ」
「もう終わってる。6月」
「そっか…でも、何かそのうち返すから。欲しいモンあったら言えよ」
「そーだな〜、思いつかねーけど。何か食いモンとか」
「食いモン…」
現実的過ぎて夢も何も無い。
「なんか、形に残るもんとかいらねえの?」
「いや、別に無えな」
余りに素っ気無い。こいつこんな調子で前の彼女ともやってたんじゃないだろうなと心配してしまう。
女の子は思い出とか記念日とかそういうのを重視するから、こんなんじゃ、さぞ(彼女にしたら)味気ない付き合いだっただろうと思う。
そのまま思ったことを言ってみると、
「最初は不満漏らしてたけど。でも段々受け入れてくれたし」
本当に受け入れてくれてたのか疑問に残るところだ。実は不満を溜めてたんじゃないだろうか。
しかし、と思い直す。今は、関係無いし。付き合ってんの、オレだし…と、リングの入った小さな紙袋を見る。
そして、心の中でこっそりうへへと笑った。
小さな幸せに浸る慎吾。