「慎吾ォ!」 次の日、オレは昼休みに入るや否や、慎吾を大声で呼んだ。 驚いた顔で、後ろの席のオレを振り返り、他のクラスメイトも何事かとオレを見た。 目立ってしまったが、この際何をしてでも慎吾を捕まえようと思っていた。 アルコールの切れた依存症患者のように、慎吾に飢えていて、とにかく苛立っていた。 「何、何だよ…」 妙に迫力のあるオレが近付いてくる様子を引き気味に見ていたが、「こっち来い」といって腕を掴んで歩き出したオレにおとなしく腕を引かれて裏庭についてきた。 とにかく言いたい事は色々あったが、ちゃんと慎吾を確保できた事に一先ずは安心する。 「昨日、昼休みどこ行ってたんだよ」 すぐに切り出した。 「え、……昨日は、や、山ちゃんトコに…」 「あぁ?」 自然、眉が吊りあがってしまう。 「山ちゃんに何か用でもあったのか?」 問うと、目を泳がせつつ「だって、オレの男力が…」などと意味不明な事をブツブツ言っている。 男力って何だ。 するとボソボソと話し始めた。 「最近、山ちゃんまで可愛いとか言うしさ、もしかしてオカマ化してんじゃねーかとか」 何だその妙に飛躍した発想は。 オレは「はぁ?してねぇよ」と一刀両断し、更に「つかそれより山ちゃんに一々頼るんじゃねえ」と自然と声が低くなるのを感じつつ言う。 「でもああ見えて結構、ここぞという時には力になってくれるしさ」 「オレはここぞという時に力にならねえのか」 怒りのボルテージが嫌が応にも高まる。 それを見た慎吾が焦ったように言う。 「いや、そうじゃなくてさ…何か、お前には話しにくいっつーか、いや、いやいや、そうじゃなくて。こういう話は第三者的な人間のが良いかなって思っただけで」 逆にドツボにハマってしまった自分の言動を何とか取り繕おうと、慌てて言葉を付け足している。 「…だいだいさ、オレがホントにオカマっぽくなっちゃって、そのうちヤバいキャラになって女の子に相手にもされないような感じになっちゃったりしたら最悪っつうか。ええっと、つまり例えばさ、異性に全く見向きもされない恋人と、異性にモテモテだけど自分にゾッコンの恋人がいたら、どっちが良いよ?って話で。ゼッテー後者だろ?てかオレは後者だ。だから…」 「分かった。つまりお前はオレにモテモテになれって言ってんだな?」 「は?え、や、そうは言ってな…」 「言ってんだろ。分かったよ。お前には及ぶべくも無いだろうが、精々頑張るよ。男を磨くのをな」 ギロリと慎吾を見つつ言う。 「ちょ、違うって」 「とりあえず、お前はもうオカマ化がどうとかトンチンカンな事考えてんな。有り得ねえから」 「…有り得ねえ?」 「有り得ねえ」 そう断言すると、ちょっと安心したような顔になった。つかコイツの馬鹿っぽい悩みに図らずも多少振り回されたオレは何だったんだ。 「で、これで話は終わりだ」 「あ、そう。じゃあ昼飯食おうぜ。オレ弁当教室に置いてきちまったんだよなー。お前がいきなり連れ出すからよ」 「話は終わったが、オレの肝心の用事は終わってない」 「用事?」 「用事だ」 そう言ってオレは、慎吾の手首を掴み歩き出し、すぐ脇にある小さな倉庫の取っ手に手を掛けた。 「おい、何だよ。用事って何」 やや滑りの悪い引き戸を開け、閉じる。 窓が無いのでかなり薄暗い。ここは色んな道具や不燃物置き場になっていて、こんな昼休みにやってくる人間はまずいない。用務員のおじさんがよっぽど気まぐれでも起こさない限り。 「なぁ、和己」 尚も声をかける慎吾を無言で抱きしめる。 「!」 顎を上向かせて口付ける。 「…!…んんっ」 後頭部を左手でガッチリ固定して逃れさせず、口内を貪る。 「…っ!……ん…っ」 息継ぎも儘ならない慎吾がやや苦しそうに息を吐く。一方のオレは、慎吾の口内の感触を存分に味わっていた。 兎にも角にもようやくこうして腕の中に慎吾を抱き、思う存分キスしているという現状がそもそもオレには堪らないわけで、そう簡単に終わらすつもりは無かった。そんなわけで結構な時間、口内を貪っていた。 取り敢えず、と唇を離した頃には、慎吾は顔を赤くし、息を乱していた。 「…んだよ…いきなり…」 そういいつつも、切なそうに俯き、身体をオレに添わせる。 そういう所が可愛い。何だかんだでオレが好きなんだと正直に教えてくれる。 「オレにとってはいきなりでも何でもない。ここ数日のアレコレの末の結果だ」 「は…?」 良く分からないという顔の慎吾を無視して、顎先に口付け、そこから喉元に滑らせる。 更にネクタイに指をかけ、引っ張って緩める。もう片方の手は、慎吾のシャツを引っ張り出していた。 「ちょ、何、何し始めちゃってんの」 慎吾の露になった鎖骨に舌を這わせつつ、シャツの下から潜り込ませた手で上半身を弄る。 下腹から脇、胸元へと撫で上げ、突起を摘む。 「…!待、て…って」 制止の声を発する慎吾の唇を、再度塞ぐ。 「ん…っ」 声が大分甘いものになってきた。 オレはここぞとばかりに、慎吾の股間をズボンの上から撫で上げる。 慎吾がさすがにビクリと身体を強張らせた。 そして身体を離そうと腕を突っ張った。 唇が離れる。 「待てってマジで…っ、ここ、学校だし。誰か来たらヤベーし。つかどこまでやるつもりだよ」 「誰も来ねえ」 そう言って慎吾にズイッと近付く。 「!」 一歩も引かない様子が伝わったのか、ビクリと身体を強張らせた。と思ったら俯き、甘えるように控えめに喋り始めた。 「なぁ…こんなトコじゃなくてさ…オレ、家でしたい。だって色々気兼ねなく出来んじゃん?」 そう言って、頬をすり寄せてくる。 「なぁ、家でやろーぜ?続き…家でしたい」 潤んだままの目で、控え目に、しかし誘うように訴えかけてくる。 「……」 正直、コイツやべぇ、なんて思ってしまった。 「…分かったよ」 そしてそう言ってしまっていた。 何となく未練がましく慎吾の髪の毛を弄っていたが、互いの熱が冷めたのを確認して、慎吾はシャツとネクタイを正し、倉庫を出た。 ちなみに脳内では、家でヤる事で頭が一杯だった。 あまりにダメ過ぎる。 後から思えば、良いように掌の上で転がされてる男そのものだ。 あぁヤバかった。 あんな所で、ホントにどこまでやられちまうのかと思った。 オレは和己の後姿を尻目に、ひっそりと安堵の溜息をついた。 正直、一か八かであんな事をやってみたものの、意外なぐらい和己には効果があった。 でも結局、何だったんだろう。ココ数日のアレコレの結果だとか言ってたけど。 後からその辺を確認しておかなければと思う。二の舞はゴメンだ。 が、強引に抱きしめられてキスされたりとかは嫌じゃない。 嫌じゃないというか満更でもない。自分を凄く求められている気がして。 学校じゃ無かったらなぁ、なんて事を思う。 しかし現実には学校で、昼休みだし…そう思い、ポケットの携帯で時間を確認する。 もう10分ぐらいしか残ってなかった。 「和己!」 慎吾が背後でオレを呼んだ。 「もう残り10分しか無ぇんだけど!しかも5限目移動だし!」 「…あぁ」 妄想で頭が一杯だったオレは、何となく上の空といった返事をした。 「あぁ、じゃねーよ!昼飯食う時間殆どねーじゃねーかよ!有り得ねえっつーの!飯抜きで午後の授業とか冗談じゃねーよ」 そう言うとオレを追い越して校舎へあっという間に走り去っていく。 「……」 お前それは。 さっきとのそのギャップはどうなんだ。 すっかりいい気になって のぼせていたオレは、ようやく先程の自分のマヌケぶりにも思いを至らせる事が出来たのだった。 END この後、言ったのはお前だからなとばかりに和さんは張り切ると思われます。 12/8 ← |