ああ、触りてぇ…
部室にて着替え中、後ろのロッカー前で着替えている慎吾を振り返って、思う。
この間ヤッたのは日曜日で、まだ3日しか経ってないというのに、この有様だ。
とにかく慎吾に触りたい。触りまくって色々やっちまいたい。
ちょっとした禁断症状に陥っていた。
しかしヤれるのは、どんなに早くても今週の土曜だ。後3日もある。
その3日という日が、今のオレにはとても長い。
しょうがない。
大抵部室に最後に残るのは、部誌を書くオレと、それを待つ慎吾だ。
他の部員がいなくなったのを見計らって、触りまくろう。
以前、見回りのおじさんに邪魔された事もあったが、今日は10分ぐらい早く部活を切り上げてしまえばいい。
完全に職権乱用だが、たまにはそれぐらい許されたって良いだろう。
そんな事を考えつつ、オレはグラウンドに向かうべく、部室を出た。


「慎吾〜♪」
部室で着替えていると、山ちゃんがご機嫌な声でオレを呼んだ。
「何か御用ですか…?」
このパターンは3回目で、オレは警戒心丸出しだった。
その反応に、やはり不満そうな顔をするもののすぐ気を取り直して俺の肩に腕を回してきた。
「最近、可愛いよねぇ」
「は?」
「つい構いたくなるっていうか、からかいたくなるっていうか、ちょっかいだしたくなるっていうか、イジワルというかイヤガラセしたくなるみたいな」
後半に聞き捨てなら無い言葉が潜んでた気がする。
つか、和己は見てねぇだろうな、と周りを見回すと、既に部室を出てグランドに行っているらしく姿は無かった。
大体、可愛いって何だよ、と思うが、そういえば和己にも何度か言われた記憶がある。
忘れもしない。『何かお前所々可愛いよ。有りかもとか思って』と言われたのが始まりだった。
オレはその時、単に好意的な言葉として受け止め、受け入れられたという事実に単に浮かれていたわけだけど。
男が受ける評価としては、微妙なのではないだろうか。
今更のように思った。

ランニング中も、その事について考える。
オレはもしかして、男を好きになる事によって、そして実際付き合って、しかもヤッちゃう事になって、自然と”可愛い”なんて言われるような行動や仕草を取るようになってしまっているんだろうか。
そういえばクラスの子に、『最近は食べられるより食べたい』なんて言われた事も思い出す。
これは、どういう事だ。
もしかして、男としての危機じゃないのか。そのうちどんどん、オカマ化して行っちゃうとか。
脳裏に浮かんだのは、TVで良く見る数人のオカマタレントだ。
ゾッとした。
冗談じゃない。冗談じゃねぇぞクソ。
オレは男だ。そりゃ和己に色々やられちゃったりもしてるけど、基本は、少なくとも対外的には女にモテる、桐青野球部3番セカンドの慎吾さんだ。

そんなわけで、自然と練習には力が入った。
バッティング練習では、思い切りバットを振りぬき、外野方面に何度も打球を飛ばした。空振りも多かったが。
息を切らしつつ、どうだ、こんなオカマはいねぇだろ、どっからどう見ても立派な男だろ、と思っていたら、
「慎吾ォ!!何 大振りかましてんだ、このボケ!!」と即座に監督の怒号が飛んできた。
スンマセン!!と慌てて返した。
ダメだ…何やってんだオレ、と少々自己嫌悪に陥る。


部活が終了し、着替え終わった頃には、一年も片づけを終えて戻って来始めていた。
後は部誌を書くのみだ。
至っていつもどおりに部誌を開き、机に腰掛けるが、脳内では慎吾にああしようとかこうしようとか、そんな事で頭が一杯だった。
ところで慎吾と言えば、何故だか今日は妙に気合が入っていた。いや、気合というよりは力んで空回りしていたというか。
やたらバットを振り回すし、守備では取りこぼした上に暴投もしていた。あいつにしては珍しい。監督の怒声も一番受けていた。
何かあったのか?と少し考えるが、今のオレにとっては正直どうでも良かったので考えを打ち切る。
が、そこで声をかけられた。
「和さん、あの、もし時間あったら、投球練習に付き合ってもらっても良いッスか?」
準太だ。
フォームなんかを確認したいという。今日はちょっと早めに終わったし、とも言った。
そうだ。早めに終わらせたのだ。このオレが。完全に私的かついかがわしい理由で。
オレは暫し沈黙してしまった。どうしたものか。準太に付き合っていたら、目的が達成できない。
おれの沈黙を無理と取ったのか、
「すんません、無理だったら利央に捕って貰うんで…」
と言った。
しかし、結局投球練習が行なわれる限り、オレと慎吾だけが最後に部室に残る状況は作れない。
オレはやむなく諦め、準太に付き合う事となった。
練習を早めに終わらせた負い目もあって。
それぞれに空回る1日目。